求人票の「昇給」欄と「退職金」欄。昇給あり・前年度実績・退職金制度ありの書かれ方を、応募前と内定後に確かめる

更新日: 2026年11月5日

条件・お金

引っ越しの見積もりを待つ間、家計簿アプリを開くと、「三年後」の欄だけが空いたままだった。比べている二社の求人票は、一方が「昇給あり 年1回」、もう一方が「昇給あり(前年度実績)」で、退職金はどちらも「制度あり」。三年後の欄に入れる数字は、この数行からは決まりません。 先に断っておくと、昇給率や退職金の相場、金額の見込みは出てきません。並べるのは、昇給と退職金の行の読み方と、照らし合わせる書面です。厚生労働省の資料にあることと、編集部の読みは、分けて書きました。

分かれ道マップ

いま、いちばん近いのはどれですか

近い状況を開くと、先に読む場所が出ます。

昇給と退職金の行で、引っかかっているのは、どれに近いですか

  • 「昇給あり」「年1回」とある。何が決まっているのか分からない
    結論

    モデル就業規則の解説は、昇給は就業規則に必ず記載する事項で、昇給期間等の条件を定める必要がある、としています(就業規則の作成義務があるのは、常時10人以上の事業場です)。

    昇給は、何が会社ごとか
  • 「前年度実績」「業績による」とある。これからも同じなのか分からない
    結論

    求人票の見本は、昇給の額を前年度実績として書く形です。去年の記録と、これからの定めは、別に聞きます。

    実績とこれからを分ける
  • 「退職金制度あり」とある。いつから、どう決まるのか分からない
    結論

    退職金制度は必ず設けるものではなく、設けたときは支給要件などを就業規則に記載する、とモデル就業規則の解説は書いています。

    退職金の条件と共済
  • 内定が出た。書面のどこを見ればいいのか
    結論

    昇給は、労基則第5条の書面の交付が必要な項目から除かれています。通知書の昇給と退職金の行を、就業規則の条文と並べます。

    内定後 通知書と就業規則

応募前 昇給と退職金は、求人票のどこに書かれるか

ハローワークの求人票の読み方を示した厚生労働省のリーフレット「求人票の見方」の見本には、賃金の枠に「昇給」の行があり、「あり(前年度実績 あり)」と、金額を「1月あたり◯円〜◯円(前年度実績)」と幅で書く形です(画像で確認。数字は◯に置き換えました)。退職金は別の枠で、「5 その他の労働条件等」に「退職金共済」(見本は「未加入」)と「退職金制度」(見本は「あり(勤続◯年以上)」)が並びます。

求職者向けのリーフレット「企業から受ける労働条件明示のルールが変わります!」の「最低限明示しなければならない労働条件」の表には、昇給と退職金の行が見当たりません(文字情報で確認)。同じリーフレットは、明らかになっていない労働条件がないか、面接等で確認するよう勧めています。

ここから編集部が読んだのは、次の点です(編集部の読み)。昇給と退職金は、最低限の表に行が無いので、書かれ方に幅が出やすいようです。下の表の言葉に分けて読みます。

表は横にスクロールできます →

求人票の昇給・退職金の行に出てくる書き方の例と、確かめる点(編集部の整理。例は編集部が並べたもので、実在の求人の文言ではありません。2026年11月5日に作成)
書き方の例 読めること 求人票・面接・書面で確かめる点
昇給あり 昇給の制度があること。時期や額までは書かれていない場合がある 時期、条件、額の決まり方
年1回 昇給の回数。実績の記載か、定めの記載かは、この一語では分からない 規程の昇給日。実績か定めか
前年度実績 ◯円〜◯円 過去の記録。幅があるときは、人によって違うことがある 今年度の見込み。額を決める評価の見方
業績による・査定による 会社や個人の評価で変わる書き方 何を評価するか。昇給しない場合の定め
ベースアップ 賃金表の改定。昇給とは別の言葉として使われる(調査の用語) 賃金表があるか。改定の時期
退職金制度あり 制度があること。条件や額は書かれていない場合がある 適用される範囲、支給要件、額の計算、支払の時期
勤続◯年以上 支給の条件の一つが書かれた形(見本) 足りないときの扱い。勤続年数の数え方
退職金共済(中退共)に加入 社外の共済に掛金を積み立てる形 社内の退職金制度と併せてか、共済だけか
退職金なし 制度が無い書き方 通知書の退職金の行。企業年金など別の制度

昇給は、何が決まっていて、何が会社ごとか

厚生労働省のモデル就業規則(令和7年12月版)は、必ず記載する事項(絶対的必要記載事項)の賃金関係に、賃金の決定や支払の方法などと並べて「昇給に関する事項」を挙げています。作成と届出の義務があるのは、常時10人以上の労働者を使用する事業場です(労基法第89条)。規程例の第49条は、昇給を、勤務成績その他が良好な労働者について毎年◯月◯日に行い、会社の業績の著しい低下などの場合は行わないことがあり、額は勤務成績等を考慮して各人ごとに決める、という書き方です(モデルで、実在の会社の規程ではありません)。解説は、昇給期間等の条件を定める必要がある、としています。

「昇給」と「ベースアップ」は、別の言葉です。厚生労働省の令和8年「賃金引上げ等の実態に関する調査」の用語の定義は、定期昇給を、あらかじめ労働協約、就業規則等で定められた制度に従って行われ、一定の時期に毎年増額することとし、能力、業績評価に基づく昇給も含む、としています。ベースアップは、賃金表の改定により賃金水準を引き上げることです。調査用の定義で、求人票の書き方を定めるものではありません。

ここから編集部が読んだのは、次の点です(編集部の読み)。「昇給あり」「年1回」から読めるのは、制度と時期までです。額は各人ごとに決まる書き方で、求人票の一行からは出ません。就業規則が無い事業場の昇給の書かれ方は、確認できなかったので、通知書で聞きます。

「前年度実績」と「これから」を分ける

通知書の作成例の賃金の記載要領は、昇給が業績等で行われない可能性がある場合でも、制度があれば「有」としたうえで、その可能性も書くよう求めています(賞与の側の読み方は求人票の賞与欄の記事に並べています)。見本は、昇給の額に「前年度実績」と付ける形です。

ここから編集部が読んだのは、次の点です(編集部の読み)。「前年度実績」は去年の記録で、今年度の約束とは別です。比べるときは、実績どうし、規程の定めどうしを並べます。

退職金は、制度の有無から会社ごとに決まる

モデル就業規則(令和7年12月版)は、退職手当に関する事項を、各事業場でルールを定める場合に記載する事項(相対的必要記載事項)に挙げています。第54条の解説は、退職金制度は必ず設けなければならないものではないが、設けたときは、適用される労働者の範囲、支給要件、額の計算及び支払の方法、支払の時期などを就業規則に記載しなければならず、不支給事由や減額事由を設けるなら、それも明記する必要がある、と書いています。

規程例の第54条は、懲戒解雇された者には退職金の全部又は一部を支給しないことがある、としています。第55条は、額を、退職又は解雇の時の基本給に勤続年数に応じた支給率を掛けた額とする例を表で示し(解説は、各企業の実情に応じて決める、としています)、休職の期間は会社の都合による場合を除き勤続年数に算入しない、としています。第56条は、支給事由の生じた日から◯か月以内に支払う形です(いずれもモデルで、実在の会社の規程ではありません)。自己都合と会社都合で額を分ける例は、規程例の本文に両方の語がなく、見当たりませんでした。

中小企業退職金共済制度(中退共)について、厚生労働省のページは、事業主が独立行政法人勤労者退職金共済機構と契約を結び、掛金は全額事業主が負担し、従業員の請求に基づいて機構から退職金が直接支払われる、と説明しています。

ここから編集部が読んだのは、次の点です(編集部の読み)。見本は「退職金共済」と「退職金制度」を別の欄に分けているので、共済に入っていることと、制度の条件(勤続年数など)は、別に確かめます。「退職金あり」の一行から、いつから、いくらかは読めません。勤続年数が条件なら、その数え方も規程の文面で確かめます。金額の見込みや、支給の適否は判断しません。

面接で 昇給と退職金について聞く五つの点

編集部の整理として、聞く点を五つ並べます(資料の項目ではありません)。

  1. 昇給は、制度として「ある」のか。時期はいつか。
  2. 昇給の額は、決まっているのか、評価で各人ごとに決まるのか。求人票の「前年度実績」は、何の実績か。
  3. 退職金は、制度として「ある」のか。適用される範囲と、勤続年数などの支給の条件は何か。
  4. 額の計算の方法と、支払の時期。退職金共済には入っているか。
  5. これらは通知書、就業規則(ある場合)のどの条文に書かれるか。見せてもらえるか。

額や見込みを尋ねにくいときは、質問ではなく、依頼の形にする方法もあります。「昇給と退職金の条文があるページを、入社前に見せていただけますか」なら、相手の評価や見込みを聞かずに済みます(編集部の整理)。額の話の切り出しをエージェントと進めるなら、担当者の選び方をタイプ別・エージェント選び方診断(広告を含むページです)で整理する方法もあります。

内定後 通知書と就業規則で照合する

厚生労働省の、2024年4月からの労働基準法施行規則の改正を知らせるパンフレット(表紙は「備えは大丈夫ですか?」)は、労基則第5条の明示事項のうち、①〜⑥(昇給は除く)は書面を交付して明示し、⑦〜⑭(⑦は退職手当)は、使用者がこれらに関する定めを設ける場合に明示する、としています(⑤は「賃金、昇給」)。パートタイム・有期雇用労働者には、これに加えて昇給、退職手当、賞与の有無を文書の交付等で明示することが、パートタイム・有期雇用労働法第6条第1項で求められている、とも書かれています。

モデル労働条件通知書は、賃金の欄に「昇給(有(時期、金額等)、無)」「退職金(有(時期、金額等)、無)」の行を置き、「その他」の欄に中退共と企業年金制度の有無を置いています。作成例の記載要領は、昇給・賞与・退職金の行を含む破線内の事項は、制度として設けている場合に記入することが望ましい、ただし、網掛けの事項(昇給・賞与・退職金の語も網掛け)は、短時間労働者及び有期雇用労働者に書面の交付等により明示することがパートタイム・有期雇用労働法により義務付けられている、としています。中退共や企業年金により退職金制度を設けている場合は、口頭又は書面等により明示する義務がある、ともあります。就業規則を示して適用部分を明確にし交付する方法なら、具体的な記入は要りません。

ここから編集部が読んだのは、次の点です(編集部の読み)。昇給は労基則第5条の書面の交付が必要な項目から外れているので(パートタイム・有期雇用労働者は別です)、通知書の昇給の行の書き方には幅があるようです(個別の通知書が適切かは判断しません)。求人票の行と通知書の行を並べ、違いがあれば聞き、「就業規則による」だけなら該当の条文を見せてもらいます。全体像は内定後の条件確認の記事に、中退共や企業年金の欄は求人票の社会保険完備と加入保険欄の記事にあります。

相談できる窓口

書面と聞いた話が食い違うときは、総合労働相談コーナーがあります。厚生労働省の「総合労働相談コーナーのご案内」によると、予約不要・無料で、募集・採用や賃金の引下げなどの労働問題を対象にしています。土・日・祝日・年末年始(12月29日から1月3日)は閉庁です。窓口か、社会保険労務士・弁護士などの専門家に確かめます。

まとめ

内定後に通知書が届いた日。昇給と退職金の行を、求人票のメモの隣に並べて読み、「就業規則による」とあれば、その条文を見せてほしいと頼む。そこまでの手順が手元にある状態は、答えを知っていることとは別の落ち着きにつながるかもしれません。通知書が届いたとき、まず隣に置きたい書面は何でしょうか。

本記事は一般的な情報提供を目的とした編集部独自のコンテンツです。法律や制度、行政の運用は改正されることがあります。個別の求人や労働契約の内容が適切か、昇給・退職金の定めや運用が適切か、どの窓口が適切かは、都道府県労働局・総合労働相談コーナーの窓口、または社会保険労務士・弁護士などの専門家にご確認ください。 応募や面接、内定の結果、賃金や退職金について、特定の結果を保証するものではありません。 タイプ別・エージェント選び方診断は、広告を含むページです。