フリーランスが初めての取引先と契約する前に確認したいこと
フリーランス・独立初めての取引先から、「ではその内容でお願いします」とチャットが届く。画面には報酬の金額が書かれているのに、 それがいつ振り込まれるのか、どこまでが自分の仕事なのかは、どこを探しても見当たらない。 そんな依頼を前に、返信の手が止まることがあります。 この記事では、返事をする前に文面で確かめておきたい項目と、確かめ方、迷ったときの相談先を整理しました。 手元に届いているものによって、先にやることは変わります。契約書が届いたのか、すでに作業を始めているのか、支払日が遠いのか。 自分の場面から読みたい方は、下の分かれ道マップを開いてください。
分かれ道マップ
初めての取引先から、いま何が届いていますか
届いているものを開くと、この記事で先に読む場所が出ます。
いちばん近いのはどれですか
契約書がない依頼は、珍しいことではない
会社員のときは、契約や条件の確認を会社の誰かが担ってくれていたかもしれません。 フリーランスになると、依頼のメッセージ一通から仕事が始まる場面が出てきます。 相手が悪い人だから条件が書かれていない、とは限りません。急いでいたり、慣れていなかったり、 前の担当者から引き継いだままだったりして、単に書かれていないだけのこともあります。
ただ、書かれていない部分は、あとで「そう聞いていた」「そこまでは頼んでいない」という食い違いになりやすい部分でもあります。 食い違いが起きてから話し合うより、始める前に文面にしておくほうが、お互いに気持ちよく進められます。 確認は相手を疑う行為ではなく、同じ絵を見るための作業です。
公正取引委員会と厚生労働省が、フリーランス法の施行前(2024年5月27日〜6月19日)に行ったWEBアンケートでは、 フリーランス側の回答者782人のうち、取引条件を「明示されなかったことがある」または「明示されたことがない」と答えた人(合わせて)が44.6%でした。 報酬を受け取った日から60日以内に「支払われなかったことがある」または「支払われたことがない」と答えた人(合わせて)が28.1%です。 この調査は、関係府省庁から登録された事業者団体の会員などを対象にしたもので、フリーランス全体の割合を示すものではありません。 また、法律が施行される前の数字なので、いまの実態は確認できていません。それでも、条件が書かれていない依頼を受け取った経験が、 調査の回答者の中では少なくなかったことは分かります(出典は記事の最後の「この記事の根拠」に書きました)。
知っておきたいこと: 取引条件を明示する決まりがある
2024年11月に、フリーランス・事業者間取引適正化等法(いわゆるフリーランス新法)が施行されました。 仕事を発注する側の事業者に、業務の内容、報酬の額、支払期日などの取引条件を、書面または電磁的方法で明示することを求める内容を含みます。電磁的方法にメールやチャットなどのメッセージがどこまで含まれるかは、公正取引委員会の案内で確認してください。 ですから、条件を文面で示してほしいとお願いすること自体は、特別なわがままではありません。
一方で、この法律が適用されるかどうかは、自分の働き方や相手の形態などによって変わります。 また、修正の回数や著作権の扱いのような細かな取り決めまで、法律が代わりに決めてくれるとは限りません。 自分のケースが対象になるかは、公正取引委員会や厚生労働省の案内で確認してください。制度の内容は見直されることがあるため、最新の内容は公式の案内でご確認ください。 この記事では法律の条文の解釈はせず、「文面で確認する項目」に絞って書きます。
確認したい7つの項目
契約書でも、発注のメールでも、見る場所は同じです。次の7つが文面のどこかに書かれているかを、上から順に見てみてください。
1. 業務の範囲
「何を、どこまで」やるかです。たとえば「ウェブサイトの制作」と一行で書かれているとき、デザインだけなのか、実装や公開作業まで含むのか、公開後の更新も含むのかで、作業量は大きく変わります。 曖昧な言葉は、具体的な作業の言葉に置き換えて書いてもらいます。範囲外の追加依頼が来たときにどう扱うか(別途相談か、別料金か)も、あわせて決めておくと話しやすくなります。
2. 報酬の額と支払日
金額だけでなく、「いつ払われるか」を見ます。月末締めの翌月末払いなのか、納品から何日後なのか。請求書が必要なのか、振込手数料はどちらが負担するのか。 金額が税込か税抜か、源泉徴収の扱いがどうなるかも、後から食い違いやすい点です。税金の扱いは取引先や自分の状況で変わるので、不明な点は税理士や税務署に確認してください。 入金までの期間が長いと手元資金に響きます。その考え方は 請求書を出したのに入金は来月。手元の資金が苦しいときの考え方と選択肢(広告を含む記事です) でも整理しています。
3. 納期と、納品物の確認(検収)の方法
いつまでに、どの形で納めるか。そして、納めたあとに「確認が済んだ」と誰がどう判断するかです。 検収の基準や期間が書かれていないと、納品したのに確認が終わらず、請求も進められない、という形で止まることがあります。 「納品後◯営業日以内に確認し、連絡する」のように、期間が書かれているかを見ます。
4. 修正対応の範囲
修正は、何回まで・どこまでを報酬に含むのかを確認します。回数の上限がない場合、終わりが見えなくなることがあります。 「軽微な修正は含む。方針の変更を伴う修正は別途相談」のように、線を引く言葉が入っているかを見てください。 これは相手を縛るためではなく、お互いにとって「終わり」が見える状態にするための項目です。
5. 成果物の権利と、実績としての公開
作ったものの著作権などの権利が、誰のものになるのか。納品後に自分が実績として載せてよいのかも、ここに入ります。 ポートフォリオに載せたいなら、載せてよいか、社名は伏せるかを先に聞いておきます。 権利の扱いは契約の内容によって異なり、個別の判断が必要になることがあります。迷うときは専門家に見てもらってください。
6. 秘密保持の範囲
秘密保持の条項では、「秘密情報」がどこまでを指すのかを読みます。 相手から開示された情報すべて、のような書き方だと、自分がもともと持っていた知識や、公開されている情報まで含んで読めてしまうことがあります。 一般に、すでに公開されている情報や、自分が元から知っていた情報は除く、という一文が入っているかを見ます。 入っていなければ、入れてもらえるか聞いてみる価値があります。
7. 途中でやめるときの扱い
相手の都合で依頼が中止になったとき、すでに作業した分の報酬はどうなるか。自分の側から契約を終えたい場合の手順はどうか。 ここが空白だと、揉めやすい場面のひとつで、何も決まっていない状態になります。 「中止の場合は、それまでの作業分を支払う」のように、一文あるだけで安心感が変わります。 なお、公正取引委員会・厚生労働省の資料には、6か月以上の業務委託を途中で解除したり更新しなかったりする場合は、 原則として30日前までに予告することを、従業員を使う発注者に求める定めがある、と書かれています。 自分の契約が対象かどうかは、期間と相手の形態によって変わるため、この記事では判断できません。
文面がなかったとき、どう頼むか
契約書が出てこない、あるいは条件が足りないときは、自分から文面にして送るのが現実的です。 相手に「不備があります」と指摘するより、「確認のために整理しました」という形のほうが、受け取る側も返しやすくなります。
- 「着手前に、認識を合わせるため、今回の条件を以下にまとめました。相違がないかご確認いただけますか」と書き出す
- 7項目のうち、書かれていない項目を、短い箇条書きで添える
- 相手が返事をしたメールやチャットの履歴は、あとから見返せるように残しておく
返ってくる反応は、取引先の姿勢を知る手がかりにもなります。確認に丁寧に応じてくれる相手と、確認を嫌がる相手とでは、仕事が始まってからの進み方も違うかもしれません。 ただし、これは一つの目安であり、断定はできません。
場面別の次の手
ここからは、届いているものや進み具合ごとに、次にやることを書きます。法律の話は、公正取引委員会と厚生労働省の資料に書かれている範囲に限り、 自分のケースに当てはまるかどうかの判断はしません。文例の金額・日付・作業名は、説明用に編集部が作った仮のものです。
条件が決まらないまま、作業を始めてしまったとき
公的な資料には、取引条件は業務を委託したら「直ちに」書面または電磁的方法で明示する、という定めがあると書かれています。 これは、発注側の事業者に求められる内容で、受け取る側が従業員を使っていない個人や法人などの場合に当てはまるものです。 また、法律上の「業務委託」は事業者がその事業のために行うものとされているため、個人が趣味や家庭のために頼む依頼などは、この定義から外れる可能性があります。 自分の依頼がどちらかは、この記事では判断できません。
当てはまるかどうかにかかわらず、次の順で動くと、あとから見返せる形が残ります。
- いまあるやりとりを残す。依頼のメッセージ、金額が出てくる返信、納期の話が出てくる部分を、日付が分かる形で保存します。
- いまの時点で理解している条件を、自分から文面にして送る。次のような形です。
「作業を進めるにあたり、現時点で私が理解している内容を整理しました。作業内容は〇〇、報酬は〇〇円(税込・税抜はどちらか教えてください)、納期は〇月〇日、お支払いは〇〇です。相違があればご指摘ください。」 - 書けない項目は、空欄のまま送って聞く。「支払日」「修正の回数」が分からなければ、「ここが未確認です」と並べて書きます。
- 範囲が広がりそうなら、追加分の扱いを先に聞く。「この追加は別途相談でよいですか」と、作業に入る前に一言入れます。
返事が来ないまま作業が進むときは、作業した日と内容を簡単に控えておくと、あとで相談窓口に話すときに役立ちます。
支払いが、納品や公開の何か月も先になるとき
資料に書かれている定めは、次のとおりです。 従業員を使う発注者は、フリーランスの給付を受領した日から60日以内に報酬の支払期日を設定し、支払わなければならない。 再委託の場合は、発注元から支払いを受ける期日から30日以内とされている。 相手が従業員を使っているかどうかは、外からは分かりにくいことがあります。この記事では、相手がこれに当たるかどうかは判断できません。
確認の仕方は、判断が分かれにくい部分に絞ります。
- 「公開後」「検収完了後」だけの書き方なら、日付を聞く。「納品から何日後」「毎月末締めの翌月末払い」のように、カレンダーで数えられる形にしてほしいと頼みます。
- 元請けからの再委託かどうかを聞く。元請けの入金を待ってから払う仕組みなら、その旨が文面にあるかを見ます。
- 手元資金の見通しを先に立てる。入金が遠い案件を受けるなら、その月の支払いをどう賄うかを、返事の前に紙に書いておきます。考え方は請求書を出したのに入金は来月。手元の資金が苦しいときの考え方と選択肢(広告を含む記事です)にあります。
合意のあとに、変更・やり直し・減額を求められたとき
資料には、委託期間が1か月以上の業務委託で、従業員を使う発注者がしてはならない行為として、フリーランスに責任がないのに報酬を減額すること、 内容を変更させたりやり直させたりして利益を不当に害することなどが挙げられています。 ただし、「責めに帰すべき事由があるか」「不当かどうか」は、個別の事情で判断が分かれます。この記事では、自分のケースがこれに当たるとは言えません。
- 変更・やり直しを頼まれたとき。その場で「やります」と返さず、「変更後の作業内容」「納期」「報酬への影響」の三つを文面で聞きます。「軽微な修正は含む。方針の変更を伴うものは別途相談」の線引きを事前に決めてあれば、それを根拠にできます。
- 報酬の減額を言われたとき。金額を受け入れる前に、減額の理由と、どの取り決めにもとづくのかを文面で聞きます。納得して受ける場合も、「今回に限る」など範囲を書いた形で残します。
- 不安が残るとき。下の相談先に、やりとりの履歴を持って話します。
「今日中に返事を」と急かされたとき
急かされると、確認を省いて返事をしたくなります。ただ、返事を「了解」か「断る」かの二択にする必要はありません。 先に、確認したい点があることと、回答する時間を伝える形があります。
- 「ご依頼ありがとうございます。着手前に、報酬の支払日と納品後の確認方法を確認させてください。本日〇時までに、確認したい点をまとめてお送りします。」
相手が本当に当日中の回答を必要とする理由を、聞いてみる方法もあります。 それでも条件を示さずに急かし続ける場合は、その依頼を受けないという選択肢も、判断の材料になります。 ただし、これは一つの目安で、断定はできません。
実態と契約の名前が合っていないと感じたら
契約上は業務委託でも、出社時間を細かく決められる、仕事のやり方を一つ一つ指示される、といった場面があります。 こうした働き方が、契約の名前と実態でずれていないかは、個別の事情で判断が分かれます。この記事では判断しません。 気になるときは、労働局や労働基準監督署の相談窓口など、公的な窓口に事情を話してみてください。
一人で判断できないときの相談先
条項の意味が分からない、相手に直してほしいと言い出しにくい。そんなときに使える窓口があります。 厚生労働省の委託で第二東京弁護士会が運営する「フリーランス・トラブル110番」は、フリーランスの取引上のトラブルについて弁護士に相談できる窓口です。 受付時間や相談方法は変わることがあるため、 公式サイト(フリーランス・トラブル110番)で最新の情報を確認してください。 取引の適正化に関することは、公正取引委員会や中小企業庁にも相談窓口があります。
契約の確認や条件交渉そのものに疲れてきたときは、会社員として働く選択肢を並べて見るのも、一つの整理です。 どのタイプのエージェントが自分の状況に近いかは タイプ別・エージェント選び方診断(広告を含むページです)で確かめられます。 独立前の準備は 独立を考えたら、会社を辞める前に確認しておきたいこと|チェックリスト、 案件の切れ目への備えは フリーランスの案件が途切れる前に。切れ目に慌てないための備え方 にまとめています。
返事をする前のチェックリスト
- ☐ 業務の範囲が、具体的な作業の言葉で書かれている(範囲外の依頼の扱いも決めた)
- ☐ 報酬の額、税込・税抜、支払日、請求の方法が分かる
- ☐ 納期と、検収の方法・期間が書かれている
- ☐ 修正対応の回数や範囲に、線が引かれている
- ☐ 成果物の権利と、実績として公開してよいかを確認した
- ☐ 秘密保持の「秘密情報」の範囲を読んだ
- ☐ 依頼が中止になったとき、終了したいときの扱いが書かれている
- ☐ 書かれていない項目を、文面にして相手に送り、返事を残してある
まとめ
初めての取引先に確認したいのは、業務の範囲、報酬と支払日、納期と検収、修正、権利、秘密保持、途中でやめるときの扱いの7つでした。 書かれていなければ、自分から文面にして送る。迷ったら、公的な窓口や専門家に聞く。 条件を見渡したうえで返信欄に「了解しました」と打てる日は、依頼が届いたときの戸惑いよりも、これから始まる仕事のほうに目を向けられる日になるかもしれません。 返事をする前に、7つのうち一つだけ聞くとしたら、あなたは何を聞きますか。
本記事は一般的な情報提供を目的とした編集部独自のコンテンツです。契約書の条項の解釈、法律の適用の有無、 税金・社会保険の扱いなどの個別の判断は、弁護士、税理士、公的な相談窓口などの専門家にご確認ください。 取引や転職の結果を保証するものではありません。